事業承継における株式の渡し方は、一度決めたら簡単にやり直せない経営判断です。私がAFP・宅建士として総合保険代理店に勤めていた3年間で、経営者からよく受けた相談テーマの一つが「自社株をいつ・誰に・どう渡すか」でした。2026年現在、特例事業承継税制の適用期限が迫る中、株式承継の設計を後回しにするリスクは以前よりも高まっています。この記事では、私が実務と自身の法人設立経験から整理した6つの設計軸を具体的に解説します。
事業承継で株式を渡す前に決める「6つの設計軸」とは
なぜ「渡し方」より「設計軸」を先に決めるべきか
株式の承継を考える時、多くの経営者が最初に「贈与か譲渡か」という手段の話から入ります。しかしそれは順序が逆です。私が代理店時代に関わった経営者の相談でも、手段から入って後から設計を大幅に修正せざるを得なくなったケースを何度も見てきました。
設計軸とは、「誰に渡すか(承継先の決定)」「いつ渡すか(タイミング)」「いくらで渡すか(自社株評価)」「どの方法で渡すか(手段)」「税をどう処理するか(納税計画)」「経営権をどう保つか(議決権設計)」の6点です。この順番で検討することで、最適な手段が自然と絞られていきます。
2026年に株式承継を急ぐべき背景
2026年時点で特に注意が必要なのが、「特例事業承継税制」の申請期限です。この制度は2018年度税制改正で設けられた特例措置であり、特例承継計画の提出期限が2026年3月31日まで、贈与・相続の実行期限が2027年12月31日までとされています(2025年時点での制度設計。最新情報は税理士・専門家へご確認ください)。
期限が近づくにつれ、都内の税理士事務所や弊社のような保険代理店への相談件数が増加する傾向があります。後回しにすればするほど、選択肢が狭まるのが株式承継の現実です。早期に設計軸を定めることが、結果的にコスト・税負担・家族間のトラブルすべてを抑える近道になります。
保険代理店時代の実体験|経営者の株式承継相談で見えた現実
年商3億円規模の製造業オーナーから学んだこと
私が総合保険代理店に勤めていた3年間、個人事業主・富裕層・経営者の保険と資産形成の相談を多数担当しました。その中でも印象に残っているのが、年商3億円規模の製造業を営む60代のオーナー経営者の事例です(個人が特定されない範囲でお伝えします)。
このオーナーは「息子に会社を渡したい」という意向は固まっていたものの、自社株評価の試算を一度もしていませんでした。税理士と保険担当者を交えて改めて評価を行ったところ、株価は想定の倍以上。相続発生時に多額の納税が生じる可能性が浮かび上がりました。早期に評価を把握していたからこそ、その後の引下げ対策と生命保険活用の組み合わせを設計できました。「知らないことが最大のリスク」だと、この経験で強く感じました。
私自身が2026年に法人設立で経験した保険見直し
2026年に私自身が法人を設立した際にも、保険設計を一から見直しました。法人化すると、個人で契約していた生命保険の位置づけが変わります。法人契約に切り替えることで保険料の一部を損金算入できる可能性がある一方、解約返戻金の扱いや出口設計を誤ると思わぬ税負担が生じることも理解しました。
複数の保険会社の提案を比較し、都内の独立系FP事務所にも意見を求めました。その結果、「今すぐ必要な保障」と「将来の納税原資づくり」を分けて設計するという方針が定まりました。この経験が、私が経営者の株式承継相談に保険活用を組み込む重要性を実感した原点になっています。なお、保険商品の最終判断は個別の事情により大きく異なりますので、必ず専門家への相談をお勧めします。
自社株評価と引下げ設計|承継コストを左右する最重要工程
自社株評価の3つの計算方式を理解する
非上場株式の自社株評価は、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて行われます。主な評価方式は「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」「配当還元方式」の3つです。どの方式が適用されるかは、株主の持分比率や会社規模によって異なります。
一般的に、会社規模が大きいほど類似業種比準価額方式の比重が高くなり、会社の業績が同業種平均より高い場合は株価も高くなる傾向があります。逆に純資産価額方式が適用される場合、含み益が大きい不動産や有価証券を多く保有する会社は株価が膨らみやすい構造です。まず現状の評価額を把握することが、承継設計の出発点です。
株価引下げの代表的な手法と注意点
自社株評価を引き下げる手法としては、「役員退職金の支給」「生命保険への加入と解約返戻金の調整」「不動産の活用」「事業年度の調整」などが知られています。ただしこれらはあくまで合法的な節税スキームの一例であり、適切なタイミングと組み合わせが重要です。
特に役員退職金については、不相当に高額な部分は損金不算入とされるリスクがあります。また近年、国税当局は行き過ぎた節税スキームへの監視を強化しています。株価引下げの設計は、必ず税理士と連携して進めることが不可欠です。私の経験では、保険会社の提案だけを鵜呑みにせず、独立した税理士の意見を必ず取ることを強く推奨します。事業承継 後継者不在2026|AFP宅建士が示す6つの解決軸
贈与・譲渡・納税猶予の使い分け軸
株式贈与と譲渡の税負担を比較する
株式の渡し方には大きく「贈与」「譲渡(売買)」「相続」の3ルートがあります。株式贈与の場合、受贈者に贈与税が課税されます(最高税率55%)。一方、譲渡の場合は売主側に「みなし譲渡課税」が生じる可能性があり、時価と著しく乖離した低価格での取引は税務上の問題になり得ます。
どちらが有利かは、自社株評価額・贈与額・相続財産全体の規模・後継者の資金力によって大きく異なります。一概に「贈与が得か譲渡が得か」とは言えないのが実情です。私が代理店時代に見た相談でも、試算してみると当初の想定と異なる結論が出るケースが珍しくありませんでした。
特例事業承継税制(納税猶予)の要件と活用判断
「特例事業承継税制」は、一定要件を満たす後継者が先代から非上場株式を取得した場合、その贈与税・相続税の全額を納税猶予(一定要件継続で免除)できる制度です。最大で猶予対象株式数は全株式であり、活用できれば承継時の税負担を大幅に抑えられる可能性があります。
ただし、この制度には「5年間の事業継続要件」「雇用維持要件(弾力化はされているが撤廃されていない)」「申請・届出の煩雑さ」といったハードルもあります。また、一度適用を受けた後に要件を外れると猶予税額と利子税の両方が一括納付となるリスクがあるため、適用する際は綿密な継続計画が前提です。2026年3月末の特例承継計画提出期限を前に、専門家への相談を早期に進めることをお勧めします。事業承継M&A2026|AFP宅建士が見た6つの譲渡設計軸
種類株式と生命保険活用|議決権と納税原資の同時設計
種類株式で「経営権を渡しながら口も出せる」設計を作る
事業承継で経営者が最も悩む問題の一つが、「株を渡したら経営に口を出せなくなるのでは」という不安です。この問題を解決する有力な選択肢が種類株式の活用です。種類株式とは、議決権・配当・残余財産分配などについて、普通株式と異なる権利内容を持たせた株式のことです(会社法108条)。
例えば、後継者に普通株式を渡す一方で、先代が「議決権制限株式」や「拒否権付株式(黄金株)」を保有し続けることで、株式を移転しながらも重要事項の決定に影響力を残すことができます。私が保険代理店時代に関わったある後継者支援の案件では、この仕組みを税理士・弁護士と連携して設計することで、先代オーナーの安心感と後継者への段階的権限委譲を両立させていました。
生命保険活用で納税原資を計画的に準備する
株式承継で見落とされがちなのが、納税原資の準備です。特例事業承継税制を活用しても、相続発生時に何らかの理由で猶予が取り消された場合、多額の税金が一括納付となるリスクがゼロではありません。また、特例を使わない場合はもとより相続税・贈与税の負担が生じます。
生命保険活用はこの納税原資づくりの手段として広く活用されています。法人が契約者・受取人となり、被保険者を先代経営者とする生命保険を活用することで、相続発生時に保険金を原資として活用できる設計が考えられます。また経営者に万一があった場合の「キーマン保険」は、会社の事業継続リスクをカバーする観点でも重要な選択肢の一つです。ただし、保険の活用効果は商品・契約形態・会計処理・税務判断によって大きく異なります。個別の事情に応じた判断が必要ですので、専門家への相談を必ず行ってください。
まとめ|事業承継の株式設計で押さえる6軸と次のアクション
2026年版・株式承継で設計すべき6軸の整理
- 承継先の決定軸:誰に渡すか(親族内・MBO・第三者)を最初に固める
- タイミング軸:特例事業承継税制の期限(2026年3月末)を意識した逆算設計
- 自社株評価軸:現状の株価を把握し、引下げ手法を税理士と検討する
- 手段選択軸:贈与・譲渡・相続・納税猶予の組み合わせを試算比較する
- 議決権設計軸:種類株式で経営権と株式移転のバランスをとる
- 納税原資軸:生命保険活用を含めた納税原資の計画的準備を行う
これら6軸は独立したものではなく、相互に連動して機能します。一つの軸を変えると他の軸にも影響が出るため、全体を俯瞰して設計することが重要です。私自身も法人設立後にこの全体設計の複雑さを改めて実感しており、単独で判断するのではなく税理士・弁護士・FP・保険専門家の連携チームで進めることを強く推奨します。
株式承継の保険設計は早期相談が鍵
事業承継における株式の渡し方は、経営判断の中でも特に専門性が高く、かつ一度実行したら容易に修正できない領域です。自社株評価・納税猶予・種類株式・生命保険活用のいずれも、単体で機能させるのではなく組み合わせて設計することで効果が最大化されます。
AFP・宅建士として保険代理店時代に多くの経営者の承継相談に関わり、そして自身が法人設立を経験した私の結論は、「早く始めた人ほど選択肢が多い」ということです。2026年の今こそ、保険設計を含めた株式承継の全体像を専門家と確認する最適なタイミングです。最終的な判断は必ず専門家のサポートのもとで行ってください。
※具体的な保険商品の比較・推奨は、信頼できる独立系FP・保険代理店への直接相談を推奨します。当サイトでは特定の保険商品の斡旋は行っておりません。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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