退職金の確定申告、あなたは「しなくていい」と思っていませんか?実は申告書の提出有無や課税方式の選択で、手取り額が数十万円単位で変わるケースがあります。AFP・宅地建物取引士として保険代理店時代を含む5年以上の相談実務を経てきた私が、退職金と確定申告の比較をめぐる5つの判断軸を2026年版として整理します。
退職金課税の基本構造を整理する
退職所得控除と分離課税の仕組み
退職金は給与所得と異なり、「退職所得」として独立した課税ルールが適用されます。計算式は「(退職金収入 − 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得」です。この「1/2課税」と退職所得控除の二重の優遇が、退職金を税制上有利にしている根拠です。
退職所得控除の額は、勤続年数に応じて決まります。勤続年数20年以下なら「40万円×勤続年数(最低80万円)」、20年超なら「800万円 + 70万円×(勤続年数 − 20年)」です。たとえば勤続30年なら控除額は1,500万円になります。
そして退職所得には原則として「分離課税」が適用されます。他の所得と合算せず、退職所得だけを切り離して税額を計算する仕組みです。この分離課税こそが、退職金の税負担を大きく抑えるポイントです。
「退職所得の受給に関する申告書」が課税方式を決める
実務で見落としが多いのが「退職所得の受給に関する申告書」の存在です。この書類を退職時に会社へ提出しているかどうかで、源泉徴収のされ方がまったく変わります。
申告書を提出している場合、会社側が退職所得控除を適用した上で正確な源泉徴収を行います。多くのケースで確定申告は不要になり、それだけで完結します。一方、申告書を提出していない場合は、退職金の20.42%(復興特別所得税込み)が一律に源泉徴収されます。
この20.42%という税率は、退職所得控除を考慮しない粗い税率です。本来の税額より多く徴収されていることが多く、確定申告をすることで還付が受けられる可能性があります。つまり「申告書を出したかどうか」が、確定申告をすべきかどうかの比較軸の出発点になるのです。
保険代理店時代に見た申告判断のリアル
富裕層・経営者の退職金相談で痛感した「申告漏れ」の多さ
総合保険代理店で3年間、富裕層や中小企業経営者の保険・資産形成相談を担当していた頃、退職金がからむ案件は頻繁に扱いました。その中で私が特に印象に残っているのは、退職所得の受給に関する申告書を提出していなかったために、本来より多く税金を取られたまま放置していたケースです。
ある相談者は退職金として約800万円を受け取り、会社の経理担当に任せていたため申告書の提出有無を確認していませんでした。後から確認すると申告書未提出で、20.42%の一律徴収、つまり約163万円が源泉徴収されていました。しかし実際の退職所得控除を適用した場合の税額は数十万円に抑えられる計算で、確定申告による還付余地が大きかったのです。
保険の提案で訪問した先でこうした話が出るたびに、私は「退職金は課税の入口から確認が必要です」と伝えてきました。保険の見直しと同時に税の見直しも視野に入れる習慣は、保険代理店時代に多くの実例から学んだことです。
2026年の法人設立時に自分自身で見直した体験
私自身、2026年に自分の法人を設立する過程で、改めて退職所得課税の問題を整理し直しました。法人化前後で保険契約を見直す必要が生じ、経営者向けの生命保険や、法人が受け取る死亡保険金・解約返戻金の処理について複数の観点から検討したのです。
そのプロセスで都内のFP事務所に相談した際、担当のFPからも「退職金に相当する役員退職金の課税は、個人の退職金と同じく退職所得控除の適用範囲を最初に確認することが不可欠」と指摘を受けました。法人と個人の境界を意識することの重要性を、専門家との対話を通じて改めて実感した体験でした。
個別の事情によって最適な判断は異なりますので、最終的な申告判断はご自身でご確認いただくか、税理士・FPへの相談をお勧めします。
確定申告で還付が出る5つのケース
申告書未提出・年の途中退職・医療費控除の組み合わせ
確定申告をすることで退職金に関連した還付が発生しやすいのは、主に次の5つのケースです。
- ①退職所得の受給に関する申告書を退職時に提出していなかったケース(20.42%の一律徴収が適用されている)
- ②年の途中で退職し、年末調整を受けていないケース(給与所得分の源泉徴収額が過大になりやすい)
- ③退職年に医療費控除・ふるさと納税・寄附金控除など他の控除を適用したいケース
- ④配偶者控除・扶養控除の適用漏れがあったケース
- ⑤iDeCoの掛金控除(小規模企業共済等掛金控除)を年末調整で反映できなかったケース
①が退職金直結の還付ケースです。②〜⑤は退職金そのものより「退職した年の総合的な税務処理」として確定申告に組み込むことで還付が生まれます。「退職金だけ見ても申告不要」と判断するのではなく、その年全体の税務状況と組み合わせて判断することが重要です。
分離課税を選ぶか総合課税を選ぶかの比較軸
原則として退職所得は分離課税ですが、退職所得の計算上「退職所得金額がゼロ以下になる(控除額が退職金を上回る)」場合は、課税所得が生じないため税負担はありません。この場合は申告の実益は薄いです。
一方、総合課税との比較で考えるべきケースもあります。退職所得の分離課税では累進税率の適用はなく、他の所得と合算しない点が有利に働く場面が多いです。ただし、退職所得控除を超える高額退職金の場合は1/2課税後の金額に累進税率がかかるため、勤続年数と退職金額の関係を事前に試算しておくことが重要です。
なお、2022年度の税制改正で「短期退職手当等(勤続年数5年以下の役員等以外)」については1/2課税の適用に制限が設けられました。2026年現在も、勤続5年以下の場合は退職所得の計算方法が通常と異なるため、正確な試算が必要です。中退共のメリットデメリット2026|AFP宅建士が解く6つの判断軸
住民税と社会保険への影響を見落とさない
住民税における退職所得の特別徴収
退職金にかかる住民税は、所得税と異なり、原則として退職時に会社が一括で特別徴収(天引き)します。翌年の住民税に上乗せされるわけではなく、退職時点で完結するのが大きな特徴です。
住民税の計算も退職所得控除・1/2課税の恩恵を受け、税率は一律10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。退職所得の受給に関する申告書を提出している場合、住民税も会社側で適切に計算・徴収されます。未提出の場合は住民税についても過大徴収になるリスクがあり、確定申告を通じて還付申請できるケースがあります。
ただし退職金分の住民税は翌年の住民税に反映されないため、翌年の住民税が急減する点も覚えておく必要があります。退職翌年の生活費計画を立てる際に、この「住民税の段差」を意識しておくことが実務上の重要ポイントです。
健康保険・国民年金の保険料への間接的な影響
退職後に国民健康保険に加入する場合、保険料の算定基準には前年の所得が使われます。退職金が前年所得に加算されるかどうかは、住民税申告の仕組みと連動しています。
退職所得は分離課税であり、住民税においても分離課税で完結するため、国民健康保険料の算定上は「退職所得は除く」とする自治体が多いです。ただし自治体によって算定方式が異なる場合があるため、退職翌年の国保保険料が気になる場合は、居住自治体の窓口で確認することをお勧めします。
国民年金についても、退職後に第1号被保険者に切り替わる場合は、iDeCoの継続や付加保険料の選択など、退職後の資産形成戦略を改めて整理するタイミングです。中小企業退職金共済メリット2026|AFP宅建士が解く6つの活用軸
5つの申告判断軸まとめとFP相談活用法
退職金の確定申告を判断する5つの軸
- ①「退職所得の受給に関する申告書」を提出したか確認する(未提出なら還付申告の余地あり)
- ②退職年に他の控除(医療費・ふるさと納税・iDeCoなど)が重なるか確認する
- ③勤続年数と退職金額から退職所得控除の範囲内かどうかを試算する
- ④勤続5年以下の場合は1/2課税の制限ルールを確認する(2022年改正の影響)
- ⑤退職翌年の住民税・国民健康保険料への影響を自治体に確認する
この5つの軸を順に確認することで、「確定申告が必要か不要か」「還付が見込めるか否か」が整理できます。どれか一つでも「確認できていない」があれば、それだけで申告の要否判断が変わる可能性があります。個別の事情により状況は異なりますので、税理士やFPへの相談も検討してください。
退職金準備・申告判断をFPに相談する意義
退職金の確定申告は、制度を知っているかどうかで手取り額が大きく変わります。私が保険代理店時代に担当した相談の中でも、「申告書を出していなかっただけで数十万円の還付を逃していた」事例は珍しくありませんでした。そして、退職金の税務は保険の見直しや老後の資産形成とも深く絡み合っています。
保険料の見直し・iDeCoやNISAの活用・退職後の収支計画など、退職前後の資産形成をトータルで整理したい方には、FPへの相談が一つの有力な選択肢です。費用体系や相談形式はFP事務所によって異なりますが、相談によって自分の状況に合った申告判断の最適化が期待できます。最終的な申告は専門家やご自身でご確認ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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