個人事業主として働くとき、保険設計を後回しにするのは非常にリスクが高いです。私はAFP・宅地建物取引士として大手生命保険会社と総合保険代理店で計5年間、フリーランスや経営者の相談を数多く担当してきました。2026年に自身も法人を設立し、保険を一から見直した経験から、個人事業主に本当に必要な備えを6つの軸で整理してお伝えします。
個人事業主が保険で備えるべき理由と社会保険の空白
会社員との「保障ギャップ」を正しく認識する
多くの方が見落としているのが、個人事業主と会社員の社会保険の差です。会社員には健康保険の傷病手当金(最長1年6ヶ月、給与の約2/3)が支給されますが、国民健康保険にはこの制度がありません。つまり病気やケガで働けなくなった場合、個人事業主には公的な収入補填がほぼないという実態があります。
さらに、会社員であれば厚生年金に加入できますが、個人事業主は国民年金のみです。老齢年金の受給額は会社員に比べて大幅に低くなるため、老後への備えも自分自身で積み上げる必要があります。この「保障ギャップ」を把握することが、個人事業主の保険設計の出発点です。
フリーランス保険で最初に確認すべき3つのリスク
私が保険代理店時代に相談を受けた個人事業主・フリーランスの方々のケースを振り返ると、見直しが必要になる理由は概ね3つのパターンに集約されます。
- 就業不能リスク:病気・ケガで収入が途絶えるリスク
- 医療費リスク:入院・手術に伴う直接費用と療養中の機会損失
- 老後・廃業リスク:退職金制度がなく、事業停止後の生活資金が枯渇するリスク
この3つを把握した上で保険を選ぶと、優先順位が自然と整理されます。まず就業不能リスクへの備えから着手するのが、実務上の定石です。
就業不能リスクの実例と所得補償保険の使い方
月収40万円のフリーランスが3ヶ月働けなくなったら
私が総合保険代理店に在籍していた頃、月収40万円台のフリーランスエンジニアの方が突発性難聴で3ヶ月間ほぼ仕事ができなくなったケースに立ち会いました(本人の同意のもと、詳細を一部変えて紹介します)。
3ヶ月で失われた収入は単純計算で120万円超。当座の生活費・医療費・国民健康保険料・国民年金保険料が重なり、貯蓄はほぼ底をつきました。傷病手当金がなく、就業不能保険にも加入していなかったため、回復後に多額の借入をすることになった事例です。
所得補償保険や就業不能保険は、こうした「収入の空白期間」を埋めるために機能します。待機期間(免責期間)を60〜90日に設定すると保険料を抑えられる場合があり、緊急予備資金3〜6ヶ月分との組み合わせが、実務上の設計として多く見られます。
就業不能保険と所得補償保険の違いを整理する
「就業不能保険」と「所得補償保険」は混同されやすいですが、主な違いは対象とする就業不能状態の定義と給付形式です。就業不能保険は生命保険会社が提供するケースが多く、一定の就業不能状態が続いた場合に月単位で給付金が支払われます。一方、所得補償保険は損害保険系が多く、実際の所得損失に連動する補償型です。
個人事業主・フリーランスの場合、確定申告書の所得額が補償額の基準になるため、節税目的で過度に所得を圧縮していると補償額が下がるというジレンマが生じます。これは私自身が2026年の法人設立前後に実感した点でもあります。所得補償保険を検討する際は、直近の確定申告書の数字と見込み補償額を事前にシミュレーションしておくことを強くお勧めします。
医療保険の見直し軸と個人事業主に合った選び方
医療保険に「入りすぎ」ている個人事業主は多い
保険代理店での相談を通じて感じたのは、医療保険に関して「とりあえず手厚くしておきたい」という心理から、保険料負担が膨らんでいるケースが非常に多いという点です。日額1万円の入院給付金、各種特約を全て付加した結果、月々の医療保険料だけで2万円を超えている方もいました。
現代の医療は入院期間が短縮化する傾向にあります(厚生労働省の患者調査では平均在院日数は年々短くなっています)。入院日額を手厚くするよりも、手術給付金・先進医療特約・退院後の通院補償に重点を置く設計の方が、実態に合っているケースが増えています。
医療保険の見直しの際は、「入院1日いくら」ではなく「実際にかかる費用のどこをカバーするか」という視点で棚卸しをすることが重要です。AFPとCFPの違い2026|AFP宅建士が示す6つの判断軸
特約の整理が医療保険見直しの核心
医療保険には多種多様な特約が存在します。三大疾病特約、女性疾病特約、がん診断一時金、入院一時金、精神疾患特約など、それぞれに意味はありますが、全て付加すると保険料は倍近くになることがあります。
私が個人事業主・フリーランスの相談対応をする中で優先度が高いと感じた特約は、がん診断一時金と先進医療特約の2つです。がん診断一時金は就業不能期間と重なりやすく、先進医療特約は公的保険適用外の高額治療に備えられるため、費用対効果が高いと見ています。一方、入院日額の上乗せ特約は、高額療養費制度(月の自己負担限度額は所得区分により異なりますが、目安8〜10万円程度)で一定程度カバーされることを考えると、優先度は相対的に低くなる場合があります。ただし、個別の事情によって判断は異なりますので、最終的には専門家への相談をお勧めします。
小規模企業共済とiDeCo・NISAの優先順位
小規模企業共済は個人事業主の「退職金制度」として機能する
個人事業主・フリーランスが見落としがちな制度の一つが、小規模企業共済です。中小機構が運営するこの制度は、廃業・退職時に共済金を受け取れる仕組みで、掛金は全額所得控除の対象になります。月額7万円を上限に積み立てられ、年間最大84万円の所得控除が受けられる点は、節税スキームの一例として多くのFP相談でも取り上げられています。
私自身、2026年の法人設立にあたって小規模企業共済の加入要件と解約のタイミングを慎重に検討しました。個人事業を廃業して法人を設立する場合、個人事業主としての共済契約は「廃業」として扱われ、加入年数に応じた共済金が受け取れます。この点は手続きの順番を間違えると不利になるため、法人化前に必ず確認しておくべきポイントです。
iDeCoとNISAのどちらを先に活用するか
個人事業主がiDeCoとNISAを組み合わせる際、よく聞かれるのが「どちらを先に使うべきか」という質問です。私の見解では、所得控除が受けられるiDeCoを先に上限まで積み立て(個人事業主の上限は月6.8万円、2024年12月以降の制度)、残余の投資余力をNISA(特につみたて投資枠)に回す流れが、税効率の観点から合理的な場合が多いです。
ただし、iDeCoは60歳まで原則引き出せないため、流動性の低さがデメリットです。当座の生活防衛資金が6ヶ月分未満の場合は、iDeCoの積立額を抑えて流動資産を優先する判断も十分あり得ます。個別の事情により最適解は異なりますので、資産形成の方向性についてはFPへの相談も選択肢に入れてください。AFP相談おすすめ2026|現役AFPが選ぶ6つの判断軸
私が2026年の法人化前後で削った保険と残した保険
法人設立前の保険棚卸しで気づいた「惰性加入」の実態
2026年に自身の法人を設立するにあたり、私は個人で加入していた保険を全て棚卸ししました。AFP・宅建士として人の保険を何百件も見てきた私でも、自分自身の保険については「なんとなく継続していた」契約がいくつか残っていたことに気づきました。
具体的には、20代に加入したままの終身医療保険(特約が多く割高になっていた)と、収入状況が変わっていたのに保障額を見直していなかった死亡保険がありました。前者は特約を整理してシンプルな医療保険に変更、後者は逓減定期保険に切り替えることで保険料を月1万円以上削減できました。保険の見直しは「削る」作業ではなく「必要な保障を正しく確保し直す」作業です。
法人化後に新たに検討した法人保険の視点
法人化後は、個人保険と法人保険の役割分担を整理する必要があります。役員報酬を設定した後は、所得補償の考え方が個人事業主時代とは変わります。法人が加入する役員向け就業不能保障や、法人を契約者・受取人とする医療保険は、保険料の損金算入の可否を慎重に確認した上で活用を検討します(2019年の法人税基本通達改正以降、損金算入ルールが変わっています)。
法人保険は税務と保障が複雑に絡み合うため、税理士・FPの両方に確認することを強くお勧めします。私自身も複数の専門家に意見を確認した上で判断しました。保険・投資の最終判断は必ずご自身でご確認の上、専門家にご相談ください。
月3万円以内に収める保険設計の全体像とまとめ
6つの備え軸を月3万円に落とし込む優先順位
個人事業主の保険を月3万円以内に収めるには、6つの備え軸に対して優先順位をつけて予算を配分することが重要です。
- 第1軸:就業不能保険・所得補償保険(収入途絶リスクへの備え)→ 月5,000〜10,000円程度
- 第2軸:医療保険(特約を絞ったシンプル設計)→ 月3,000〜6,000円程度
- 第3軸:小規模企業共済(掛金全額所得控除・退職金代わり)→ 月1〜7万円(iDeCoとのバランスで調整)
- 第4軸:iDeCo(老後資金・所得控除)→ 月5,000〜68,000円(上限内で調整)
- 第5軸:NISA(長期資産形成・流動性確保)→ 余剰資金で設定
- 第6軸:生命保険(扶養家族がいる場合のみ優先度を上げる)→ 月2,000〜5,000円程度
純粋な「保険料」に絞ると、就業不能保険・医療保険・生命保険の合計を月1.5〜2万円程度に抑え、残りを小規模企業共済やiDeCoに充てる設計が、多くの個人事業主にとってバランスの良い形です。ただし、年齢・健康状態・家族構成・収入水準によって最適解は異なります。
保険の見直しは「一人でやらない」ことが鉄則
私がこの5年間で最も感じているのは、保険の見直しは一人で完結しようとしないことが大切だという点です。AFP・宅建士として専門知識を持っている私でさえ、自分の保険を見直す際には第三者のFPに意見を求めました。自分の案件になると、どうしても主観が入るからです。
特にフリーランス・個人事業主は、保険・税務・資産形成が複雑に絡み合う状況に置かれています。FP相談を活用することで、保険料の最適化だけでなく、iDeCo・NISA・小規模企業共済の組み合わせまで含めた総合的な資産設計の方向性を得ることができます。相談によって最適化が期待できる部分は多く、プロの視点を借りることは有効な選択肢の一つです。最終的な判断はご自身で行い、不明点は必ず専門家にご確認ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
本記事のリンクはアフィリエイトリンクを含みます。
