個人事業主・フリーランスには、会社員のような退職金制度が存在しません。老後資金はすべて自分で準備する必要があります。私はAFP(日本FP協会認定)・宅地建物取引士として、また元保険代理店スタッフとして500件超の相談を経験してきましたが、「個人事業主の退職金準備」について正しく理解できていない方が非常に多いと感じています。この記事では、2026年時点の制度情報をもとに、月1万円から実践できる5つの積立軸を解説します。
個人事業主に退職金がない現実——老後資金の自己責任という重さ
会社員との差額は「数千万円」になることもある
厚生労働省の調査によれば、大卒会社員(大企業・定年退職)の退職金平均は2,000万円前後とされています。一方、個人事業主・フリーランスには雇用主が存在しないため、退職金はゼロです。老後に受け取れる公的年金も、国民年金のみ(月額約6〜7万円)となり、厚生年金を受け取れる会社員と比較すると年金額の差だけでも生涯で数百万円以上になる場合があります。
さらに退職金の非課税枠(勤続年数×40万円など)も会社員特有の優遇であり、個人事業主はその恩恵を受けられません。つまり、老後の生活資金という観点では、個人事業主は会社員よりも相当不利な立場に置かれているのです。
「なんとかなる」と先送りにしている方ほど、気づいた時には取り返しのつかない差が生まれています。個人事業主の退職金準備は、始めた日が最良の日です。
「老後2,000万円問題」は個人事業主には2,000万円では足りない
2019年に金融庁が公表したいわゆる「老後2,000万円問題」は、夫婦2人・会社員モデルをベースにした試算です。個人事業主の場合、国民年金のみで厚生年金がない分、年金収入が少ないため、同じ生活水準を維持しようとすれば必要な老後資産は2,000万円を超えるケースも珍しくありません。
私が総合保険代理店に勤務していた頃、50代の個人事業主の方から「今から間に合いますか?」という相談を何度も受けました。早期に対策を講じた方とそうでない方では、70代の資産状況に明確な差が出ていました。「間に合うか」ではなく、「今すぐ何から始めるか」が問われています。
小規模企業共済の活用法——個人事業主最強クラスの退職金制度
掛金が全額所得控除になる仕組みを理解する
小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、個人事業主・小規模企業経営者向けの退職金積立制度です。月額1,000円から70,000円まで500円単位で設定でき、支払った掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になります。
たとえば課税所得400万円の個人事業主が月額7万円(年間84万円)を掛けた場合、所得税・住民税合計で年間約25万円前後の税負担軽減効果が期待できます(所得税率・住民税率により異なります)。積み立てながら節税効果も見込めるため、個人事業主の退職金準備の核となる制度と言えます。
ただし、掛金は解約手当金として受け取る場合、加入期間が短いと元本割れのリスクがある点は必ず理解しておく必要があります。廃業・退職時の共済金受取なら退職所得扱いとなり税優遇が大きい一方、任意解約は一時所得扱いとなり不利になります。個別の状況により効果は異なりますので、詳細は中小機構の公式サイトや専門家にご確認ください。
月額いくら掛けるかの判断軸
掛金の設定は、現在の課税所得と毎月のキャッシュフローの両方から考える必要があります。所得が高いほど節税メリットは大きくなりますが、自営業の収入は変動しやすいため、無理な高額設定は禁物です。
私自身、2026年に法人を設立するにあたって個人事業の整理をした際、小規模企業共済の掛金をどう扱うかを慎重に検討しました。その経験から言えるのは、「最初は月2〜3万円から始め、収入が安定したら増額する」という段階的な積み上げが現実的だということです。増額・減額は年に何度でも手続き可能(減額は審査あり)なので、柔軟に対応できる点も魅力です。
iDeCoで作る老後資金——私が2026年法人化前後で実感した制度の強さ
個人事業主のiDeCoは拠出限度額が手厚い
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で掛金を拠出・運用し、60歳以降に受け取る私的年金制度です。2024年12月の法改正により、受給開始可能年齢が75歳まで延長されるなど制度が順次拡充されています。
個人事業主の場合、iDeCoの拠出限度額は月額68,000円(年間816,000円)と、会社員(月額12,000〜23,000円)と比べて格段に高く設定されています。掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除になります。小規模企業共済と同じ控除枠を使うため、両制度の合計が課税所得の範囲内に収まるよう調整することが重要です。
運用は定期預金から株式インデックスファンドまで自由に選べます。ただし60歳まで原則引き出せない点は、流動性を重視する方にとってデメリットになり得ます。老後資金として割り切って積み立てる覚悟が必要です。
保険代理店時代の相談事例と私自身の失敗談
総合保険代理店に勤務していた頃、フリーランスのデザイナーの方から「iDeCoと小規模企業共済、どちらを優先すべきか」という相談を受けたことがあります。その方の課税所得は約300万円で、キャッシュフローに余裕が少ない状況でした。結果として、節税効果と流動性のバランスから、まず小規模企業共済を月20,000円で開始し、半年後にiDeCoを月10,000円で追加するプランを一緒に整理しました。
私自身も個人事業主時代にiDeCoを月23,000円で運用していましたが、2026年の法人設立時に加入区分が変わる点を失念しており、手続きのタイミングがずれて一時的に掛金が滞った経験があります。法人成り・廃業・転職など、ライフイベントごとにiDeCoの区分変更手続きが必要である点は、多くの方が見落としがちなポイントです。事前に金融機関や専門家に確認することを強くお勧めします。法人保険で退職金準備2026|AFP宅建士が解く5つの設計軸
つみたてNISA併用術——税制優遇を二重に活用するフリーランス老後戦略
2024年の新NISA移行でフリーランスにも大きなメリット
2024年1月から旧つみたてNISAは「新NISA(つみたて投資枠)」へと移行しました。年間投資枠は最大120万円(つみたて投資枠)に拡大され、非課税保有期間も無期限化されています。iDeCoが「60歳まで引き出せない老後資金専用」であるのに対し、NISAは「いつでも引き出せる中長期資産形成」として機能します。
個人事業主のフリーランス老後資金戦略として、iDeCo(老後資金・節税優先)とNISA(流動性確保・資産形成)を組み合わせる二重活用は、現時点で有力な選択肢の一つです。月3万円をiDeCoに、月1万円をNISAつみたて投資枠に振り向けるといった配分も、相談現場でよく検討される組み合わせです。
ただし、NISAは所得控除にはなりません。節税効果を優先するなら小規模企業共済・iDeCoを先行させ、余裕資金でNISAを積み増すという順序が基本となります。個別の所得・キャッシュフローにより最適解は異なりますので、最終的な判断はFPや税理士にご相談ください。
積立順序の原則——節税→流動性→資産成長の三段階
個人事業主の積立優先順位は「①節税効果の高い制度から埋める → ②老後資金を固定化する → ③流動性のある資産を増やす」という三段階で考えると整理しやすくなります。具体的には、①小規模企業共済(所得控除・退職金化)、②iDeCo(所得控除・老後資金ロック)、③新NISA(非課税・流動性あり)の順が、多くのケースで税効率の高い組み立て方となります。
もちろん、収入の安定度・家族構成・リスク許容度によってバランスは変わります。私がAFP相談の現場で感じるのは、「制度を知っているかどうか」だけで積立効率が大きく変わるという現実です。制度の仕組みを正しく理解した上で、ご自身の状況に合った選択をすることが重要です。iDeCoと退職金の違い2026|AFP宅建士が解説する7つの判断軸
私が失敗した積立順序と、5つの軸を整理したまとめ
5つの積立軸:優先度と特徴の一覧
- ①小規模企業共済……掛金全額所得控除・廃業時に退職所得として受取可。個人事業主の退職金準備の中核。月1,000円〜70,000円。
- ②iDeCo(個人型確定拠出年金)……掛金全額所得控除・運用益非課税・受取時も優遇。個人事業主は月最大68,000円。60歳まで引出不可。
- ③新NISA(つみたて投資枠)……年間120万円非課税・いつでも引出可・所得控除なし。流動性のある資産形成に最適。
- ④民間の個人年金保険……生命保険料控除(年間最大4万円)の対象。元本確保型の商品もある。利率・手数料の確認が必要。選択肢の一つとして検討する価値がある。
- ⑤不動産・その他実物資産……インフレヘッジやインカムゲインが期待される。私自身も2026年の法人設立後にインバウンド民泊事業を運営し、実物資産活用を実践中。ただし流動性・管理コストを十分に考慮する必要がある。
AFP相談を活用して「自分専用の設計図」を作る
私がこれまで保険代理店・FP相談の現場で見てきた中で、最も多い後悔は「もっと早く制度を知っていれば」というものです。小規模企業共済・iDeCo・NISAを同時に最大活用すれば、年間で数十万円単位の節税効果が期待できるケースもあります。しかし、どの制度をどの順で、いくら掛けるかは、あなたの収入・家族構成・事業の安定度によって大きく変わります。
私自身、2026年の法人化時に複数のFP相談を経て積立設計を見直した経験があります。「制度を知っている」と「自分に最適化された設計図がある」は全く別のことです。FPのサポートを活用することで、個別事情に応じた積立プランの最適化が期待できます。まずは気軽に相談することから始めてみてください。最終的な判断はご自身で行い、必要に応じてFP・税理士等の専門家に確認されることを推奨します。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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