退職金の確定申告で「申告不要だと思っていたら追徴課税された」「退職所得控除の計算を間違えて税額が想定より大きかった」という相談を、保険代理店時代に何度も受けてきました。退職金は受け取り方・申告のタイミング・他の所得との組み合わせによって、手取り額が大きく変わります。AFP・宅地建物取引士として、退職金確定申告の注意点を7軸で整理しました。
退職所得控除の計算で見落としやすい注意点
勤続年数の端数処理を誤ると控除額が変わる
退職所得控除の計算式は、勤続年数20年以下の部分が「40万円×勤続年数」、20年超の部分が「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」です。ここで特に気をつけてほしいのが、勤続年数の端数処理です。
所得税法の規定では、勤続年数に1年未満の端数がある場合は切り上げて計算します。たとえば実際の勤続年数が19年8ヶ月であれば、20年として計算します。これを知らずに19年で計算してしまうと、控除額が40万円少なくなります。
私が総合保険代理店に勤めていた頃、ある中小企業の経営者から「退職金を役員に支払う際の計算をチェックしてほしい」と依頼を受けました。確認すると、端数を切り捨てて計算していたケースが複数あり、修正によって税負担が変わった事例を実際に経験しています。勤続年数の端数処理は、計算式そのものより先に確認すべき項目です。
障害者になったことによる退職の特例を確認する
障害者になったことが直接の原因で退職した場合、退職所得控除額に100万円が加算されます(所得税法第30条第3項)。この特例は意外と見落とされがちで、該当する方が申告書に反映できていないケースがあります。
健康上の理由で退職を余儀なくされた方は、この特例の適用可否を税務署または税理士に必ず確認してください。退職所得控除の計算注意点として、端数処理とこの障害者特例の2点は特に重要です。
保険代理店時代に見た退職金相談の実態
富裕層・経営者ほど「申告不要」を過信していた
私はAFP(日本FP協会認定)の資格を持ち、大手生命保険会社に2年、その後総合保険代理店に3年勤務しました。代理店時代は個人事業主・富裕層・経営者の保険・資産形成相談を多数担当しており、退職金が絡む相談も少なくありませんでした。
驚いたのは、資産規模が大きい方ほど「退職所得の受給に関する申告書を会社に出しているから、あとは何もしなくていい」と思い込んでいるケースが多かった点です。確かに、勤務先に申告書を提出して源泉徴収が適切に行われていれば、基本的に確定申告は不要です。しかし「複数の退職金を同じ年に受け取っているケース」や「他の所得との兼ね合いで有利になる場合」については、話が変わります。
退職所得の受給に関する申告書を提出しなかった場合、一律20.42%の源泉徴収がかかります。申告書を提出していれば本来ゼロまたは低率で済む税額が、提出漏れ一つで大きく変わります。この申告書は退職金受け取り前に必ず提出するものだと、強調して伝え続けてきました。
2026年の法人設立で自分自身が直面した退職金設計の課題
2026年に自身の法人を設立した際、私は改めて退職金設計と課税の仕組みを見直す機会を得ました。法人の役員退職金は損金算入できる点で個人の退職金と税務上の性質が異なりますが、受け取る側の課税計算は同じ退職所得の枠組みで行われます。
法人化後の保険見直しも行い、中小企業向けの生命保険を活用した退職金積立スキームを検討しました。ただし、保険を活用した退職金準備はあくまで選択肢の一つであり、効果が期待される手法として理解した上で、最終判断は税理士や専門家に確認することを強くお勧めします。個別の事情によって適切な設計は大きく異なります。
分離課税と総合課税の違い・5年ルールの落とし穴
退職所得は原則として分離課税で有利に扱われる
退職金は原則として他の所得と分けて計算する「分離課税(申告分離課税)」の対象です。退職所得控除を差し引いた後の金額をさらに2分の1にした額が課税対象となるため、同額を給与で受け取るよりも税負担が大幅に軽くなる仕組みです。
この「2分の1課税」は、長年働いてきたことへの功労報酬という性格から設けられた優遇措置です。分離課税の仕組みを正しく理解しておくことが、退職金確定申告の注意点の中核となります。中退共のメリットデメリット2026|AFP宅建士が解く6つの判断軸
5年ルールを知らないと2分の1課税が適用されない
ここで注意が必要なのが「5年ルール」です。2013年の税制改正により、勤続年数が5年以下の役員等(法人役員・国会議員・地方議員等)が受け取る退職金については、2分の1課税が適用されません。さらに2022年の税制改正では、役員等以外の従業員であっても勤続年数5年以下の場合、退職所得控除後の金額が300万円を超える部分については2分の1課税が適用されないこととなりました。
つまり、転職が多い方や短期間で退職した方が退職金を受け取る場合、従来の計算式をそのまま当てはめると誤りになる可能性があります。5年ルールは2022年以降の退職から適用されているため、2026年現在の退職者は必ずこのルールを確認する必要があります。
私が保険代理店時代に相談を受けた中にも、設立間もない法人の役員が短期で役員退職金を受け取るスキームを検討していたケースがありました。5年ルールを見落とした場合の税額シミュレーションと正しい計算を並べて提示すると、税額の差に驚かれることが多かったです。
住民税・iDeCo一時金との重複に関する注意点
住民税は翌年度に特別徴収される仕組みを理解する
退職金にかかる住民税は、所得税と同様に分離課税として計算されますが、課税のタイミングが異なります。所得税は退職時に源泉徴収される一方、住民税は翌年度に一括または分割で課税されます。
退職後に無職や低収入の状態が続いていると、翌年度に住民税の納付通知が届いたときに「想定より大きな出費」として資金計画を狂わせることがあります。退職金の手取り計算をする際には、翌年の住民税負担も必ずキャッシュフロー計画に組み込んでください。
住民税の税率は原則として所得割10%(市区町村民税6%+道府県民税4%)です。退職所得の計算後の金額にこの税率がかかるため、退職所得控除後・2分の1後の金額が大きければ住民税負担も相応に発生します。特別徴収の仕組みと翌年の資金計画はセットで考える習慣をつけてください。
iDeCo一時金と退職金を同じ年に受け取る際の注意点
iDeCoを一時金で受け取る場合、これも退職所得として扱われます。同じ年に勤務先からの退職金とiDeCoの一時金を受け取ると、退職所得控除を「重複して使えない」という落とし穴があります。
具体的には、同一年に複数の退職所得がある場合、退職所得控除の計算における「勤続年数」の重複期間を調整する規定があります(所得税法施行令第69条)。この調整を知らずに申告すると、控除を二重計上したと判断され修正申告を求められるリスクがあります。
私自身、iDeCoを運用しており、将来の一時金受け取りタイミングについては意識的に退職金の受け取り年と切り離す設計を検討しています。iDeCoと退職金を同じ年に受け取ることが有利になるケースもあれば、翌年以降にずらした方が控除を有効に使えるケースもあります。個別の事情によって判断が変わるため、FPや税理士への相談を活用することを推奨します。中小企業退職金共済メリット2026|AFP宅建士が解く6つの活用軸
退職金確定申告の注意点まとめとFP相談活用法
7つの落とし穴チェックリスト
- 勤続年数の端数は切り上げ処理しているか
- 障害者による退職の場合、100万円加算特例を確認したか
- 退職所得の受給に関する申告書を退職前に会社へ提出したか
- 勤続年数5年以下の場合、5年ルールによる2分の1課税の非適用を確認したか
- 住民税は翌年度課税であることをキャッシュフロー計画に反映したか
- iDeCo一時金を同じ年に受け取る場合、退職所得控除の重複調整を確認したか
- 複数の退職金がある年は、源泉徴収票を全て揃えて確定申告を検討したか
退職金の不安はFP相談で整理するのが現実的な選択肢
退職金の税計算は、勤続年数・役員か一般社員か・iDeCoの有無・複数回の退職経験など、個人の状況によって計算ロジックが大きく変わります。本記事で解説した7つの注意点はあくまで一般論であり、最終的な税額判定や申告要否の判断は、必ずご自身の状況に基づいて税理士・FPに確認してください。
私自身、AFP資格を持ちながらも自分の法人設立時には複数のFP事務所に相談し、第三者の視点を取り入れました。専門家であっても「自分の案件は自分だけで完結させない」というスタンスが、見落としを防ぐ現実的なアプローチです。
退職金の受け取り方・iDeCoとの組み合わせ・法人役員としての退職金設計など、ライフステージに応じたFP相談を検討している方は、以下のサービスを選択肢の一つとして確認してみてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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