役員保険の必要性は「なんとなく必要そう」という感覚論で語られがちです。しかし私がAFP・宅建士として保険代理店時代に500人超の経営者相談を担当し、2026年に自身の法人を設立した経験から言えば、必要性の判断には明確な軸があります。この記事では、事業保障・退職金準備・税務の三方向から、役員保険の必要性を6つの判断軸で整理します。
役員保険が必要な3つの理由|経営者固有のリスクを整理する
個人事業主と法人役員では「リスクの性質」がまったく異なる
個人事業主であれば、万が一の際に事業自体が消滅することも一つの「出口」になり得ます。しかし法人の代表取締役・役員は違います。自分に何かあっても、法人は存続します。従業員への給与支払いが続き、取引先への債務が残り、金融機関への返済義務は消えません。
私が総合保険代理店に在籍していた頃、40代の中小企業オーナーが突然の入院で2か月間休業し、売上がほぼゼロになったにもかかわらず固定費だけは毎月200万円以上かかり続けたという事例を目の当たりにしました。法人保険がなければ、役員個人が私財を切り崩すか、金融機関に緊急融資を申し込むしかありません。役員保険は、こうした「法人固有のリスク」に備える手段として機能します。
役員は「雇用保険の対象外」という盲点
会社員であれば失業給付・傷病手当金の補完的な役割を社会保険が担いますが、役員は雇用保険の被保険者にはなれません。傷病手当金も役員報酬には原則として適用されません。つまり役員が長期入院・就業不能状態になった場合、個人の収入は実質的にゼロになるリスクがあります。
さらに経営者保険としての役割は、単なる「死亡保障」にとどまりません。就業不能リスク・賠償リスク・事業継続リスクまで含めて設計するのが実務の常識です。「役員保険は死亡した時だけの備え」という認識は、2026年現在においても経営者相談で頻繁に見かける誤解の一つです。
法人化直後に私が直面した保険見直しの実体験
2026年法人設立時、個人保険をそのまま継続することの問題点
私自身、2026年に法人を設立した際に最初に直面したのが「個人で加入していた生命保険をどう扱うか」という問題でした。個人事業主時代に加入していた収入保障保険と医療保険は、個人契約のまま継続できます。しかし法人として事業保障を確保するためには、別途、法人契約の保険を検討する必要があります。
AFP資格を持つ私でも、自分のこととなると客観的な判断が難しくなります。そこで複数のFP事務所に相談を依頼しました。結果として、個人保険はそのまま継続しつつ、法人として必要保障額を算出し直し、法人名義で経営者保険を新規検討するという方向性が固まりました。「個人の保険と法人の保険は目的が違う」という当たり前の事実を、自分ごととして再確認した体験です。
退職金準備を意識した保険設計に気づくまで
法人化して初めて実感したのが、退職金準備の問題です。個人事業主には退職金という概念がありません。しかし法人の役員は、適切に設計すれば退職時に退職金を受け取ることができ、退職所得控除を活用することで税負担を大きく抑えられる可能性があります。
私が複数のFP相談を経て理解したのは、「役員保険の解約返戻金を退職金原資に充てる設計」が、依然として法人保険の活用方法として代表的な選択肢であるという点です。2019年の法人税基本通達改正によって以前のような全額損金算入は難しくなりましたが、保険の機能そのものは変わりません。個別の事情により異なるため、最終的な判断はFP・税理士への相談を強くお勧めします。
事業保障としての必要保障額|計算の3ステップ
「なんとなく1億円」では根拠がない。必要保障額の算出方法
役員保険の必要保障額を「売上の2年分」「なんとなく大きな数字」で決めている経営者は少なくありません。しかし保険代理店時代の経験から言えば、必要保障額は次の3つの要素を積み上げて算出するのが基本です。
- ① 負債の総額:金融機関への借入残高、リース債務、保証債務の合計
- ② 事業継続コスト:後継者や代替人材が業務を引き継ぐまでに必要な固定費(目安として6か月〜1年分)
- ③ 遺族への生活保障:役員個人の収入が途絶えた場合の家族の生活費(既存の個人保険との重複を控除する)
この3つを合算した金額が、法人として確保すべき最低限の事業保障額の目安になります。私が担当した経営者相談では、負債だけで1億5,000万円を超えるケースも珍しくありませんでした。「個人の生命保険で十分」という認識が危険な理由は、法人債務と個人の生活保障をごっちゃにしているからです。
「キーマン保険」と「事業保障保険」の使い分け
法人保険には大きく分けて、役員自身を被保険者とするキーマン保険と、事業そのものの継続を目的とした事業保障型の保険があります。どちらを優先するかは、会社の規模・後継者の有無・借入の有無によって変わります。
たとえば後継者がおらず、役員一人で事業が成立しているフリーランス的な法人であれば、役員の就業不能リスクに対応する保険を優先すべきです。一方、すでに幹部が育っていて事業継続性が高い法人であれば、退職金準備と節税効果を組み合わせた設計が現実的な選択肢になります。中小企業保険おすすめ2026|AFP宅建士が選ぶ7つの法人保険軸
税務メリットと2019年通達後の実務|損金算入ルールの現在地
2019年通達改正が法人保険設計に与えた影響
2019年6月、国税庁は法人税基本通達を改正し、法人が契約する定期保険・第三分野保険(医療保険・がん保険等)の保険料損金算入ルールを大幅に見直しました。改正前は、一定の逓増定期保険などが保険料の全額または大部分を損金算入できたため、「節税保険」として広く活用されていました。
改正後は、最高解約返戻率に応じて損金算入割合が区分されます。最高解約返戻率が85%超の場合、当初10年間は保険料の一部しか損金算入できない仕組みになっています。この改正は実務に大きな影響を与えました。ただし「税務メリットが完全になくなった」わけではなく、設計次第で引き続き節税スキームの一例として活用の余地があります。最終的な税務判断は税理士との連携が不可欠です。
退職金準備との組み合わせで考える「保険の出口戦略」
法人保険の本質的な価値は、保険料の損金算入だけではありません。「解約返戻金を退職金原資として活用する」という出口戦略が、依然として法人保険活用の中核にあります。役員退職金には退職所得控除(勤続年数×一定額)が適用されるため、同額を給与として受け取るよりも手取りを高くできる可能性があります。
ただし退職金の適正額については「功績倍率法」(最終報酬月額×勤続年数×功績倍率)が判断基準になります。過大な退職金は損金算入が否認されるリスクがあるため、設計段階から税理士との確認が必須です。私が相談を受ける経営者の中には、退職金の上限額を把握しないまま保険に加入しているケースが実際にありました。法人保険の経理処理2026|AFP宅建士が解く5つの仕訳軸
必要性が低い法人の特徴と、加入前の6つのチェック軸
役員保険の必要性が相対的に低いケース
すべての法人に役員保険が必要かというと、そうではありません。以下のような特徴を持つ法人では、役員保険の優先度が相対的に低くなる場合があります。
- 設立間もなく、法人の借入がほとんどない
- 役員報酬がごく少額で、個人資産も少なく解約返戻金の活用余地がない
- 後継者がすでに確定しており、事業継続性が高い
- 役員個人として十分な資産(流動性の高い金融資産)を保有している
逆に言えば、借入が大きく・役員個人の収入依存度が高く・後継者がいない法人は、役員保険の必要性が高いと判断できます。「事業規模が小さいから不要」という判断は必ずしも正しくありません。小規模法人ほど、役員一人への依存度が高く、リスクが集中しているケースが多いからです。
加入前に確認すべき6つの判断軸
私がAFPとしてFP相談を受ける際、役員保険を検討している経営者に対して必ず確認する6つの軸を整理します。
- ① 事業保障の必要保障額:法人の負債総額と事業継続コストを試算しているか
- ② 個人保険との重複:個人の生命保険・医療保険と保障内容が重複していないか
- ③ キャッシュフローへの影響:保険料支払いが法人の資金繰りを圧迫しないか
- ④ 出口戦略の明確化:解約・満期時の資金をどう使うか(退職金・事業投資・相続対策)
- ⑤ 税務上の損金算入割合:2019年通達を踏まえた現在の損金算入ルールを理解しているか
- ⑥ 見直しタイミングの設定:3〜5年後の事業計画に合わせた定期的な見直しを予定しているか
この6軸を自己チェックするだけでも、役員保険の必要性と優先度についての判断が大きく変わります。ただし最終的な加入判断は、個別の事情により大きく異なります。専門家への相談を組み合わせることをお勧めします。
まとめ:役員保険の必要性は「事業の実態」から逆算する
役員保険の必要性を判断する6軸まとめ
- 役員は雇用保険・傷病手当金の対象外であり、社会保障の空白を法人保険で補う視点が重要
- 事業保障の必要保障額は「負債+事業継続コスト+遺族保障」の3要素で算出する
- キーマン保険と事業保障型保険は目的が異なり、使い分けが必要
- 2019年通達改正後も、退職金準備との組み合わせで法人保険の活用余地は残っている
- 借入が少なく流動資産が豊富な法人は、役員保険の優先度が相対的に低い場合がある
- 加入前の6軸チェック(保障額・重複・CF・出口・税務・見直し)を必ず実施する
法人保険の次の一手:オンラインFP相談で自社に合った設計を
役員保険の必要性は、法人の規模・業種・借入額・後継者の有無によって大きく変わります。「他社の事例がそのまま自社に当てはまる」ことはまずありません。私自身、2026年の法人設立時に複数のFP相談を経て初めて自分の法人に合った設計の方向性を掴めました。それほど個別性の高い領域です。
一方で、対面相談に時間が取れない経営者・役員にとって、オンラインで気軽に法人保険の相談ができる環境は非常に有用です。役員保険・法人保険の設計に不安がある方、2019年通達後の現在の損金算入ルールを確認したい方は、まず一度相談してみることを選択肢の一つとして検討してみてください。最終的な判断はご自身でご確認いただくことを前提に、専門家のサポートを活用する価値は十分にあります。
※具体的な保険商品の比較・推奨は、信頼できる独立系FP・保険代理店への直接相談を推奨します。当サイトでは特定の保険商品の斡旋は行っておりません。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
本記事のリンクはアフィリエイトリンクを含みます。
