個人事業主が保険を活用するメリットは、単純な「万が一への備え」だけではありません。節税・所得補償・退職金準備まで、使い方次第で手元資金の流れそのものが変わります。AFP・宅地建物取引士として保険代理店に5年携わり、自身も個人事業主として複数の保険を見直してきた私が、2026年時点での7つの活用軸を具体的に整理します。
個人事業主と保険の基本関係——会社員との決定的な違いから理解する
会社員が当たり前に持っているセーフティネットが、個人事業主にはない
会社員であれば、病気やケガで休業した際に傷病手当金(標準報酬日額の約3分の2、最長1年6か月)が支給されます。また、退職後は企業年金や退職金が受け取れる仕組みが整っていることも多いです。しかし個人事業主・フリーランスには、こうした制度が原則として適用されません。
国民健康保険には傷病手当金の制度がなく(2021年以降の新型コロナ特例を除く)、国民年金の老齢基礎年金は2024年度で月額約6万8,000円にとどまります。この構造的なギャップを埋めるのが、個人事業主にとっての保険活用の出発点です。
個人事業主が保険を活用すべき7つの軸とは
総合保険代理店で勤務していた3年間、私は毎月数十件の保険相談を受けてきました。その経験から、個人事業主が保険を検討する際の軸は大きく7つに整理できます。
- ①死亡保障(遺族への備え)
- ②就業不能・所得補償(働けないリスクへの対応)
- ③医療保障(入院・手術費用のカバー)
- ④節税(所得控除・経費計上)
- ⑤退職金準備(小規模企業共済・積立型保険)
- ⑥事業継続リスクへの備え(賠償責任・PL保険等)
- ⑦資産形成との連携(iDeCo・NISA・貯蓄型保険の組み合わせ)
この7軸を意識しながら保険ポートフォリオを組むと、保険料の払いすぎも、保障の抜け漏れも、どちらも防ぎやすくなります。
保険代理店時代と自身の法人化で学んだ実体験——節税効果を最大化する軸
保険代理店3年間で見た「節税を目的にした保険の使い方」の実態
私が総合保険代理店に在籍していた頃、経営者や個人事業主の方から「節税目的で保険を使いたい」という相談を多数受けました。当時、法人向けの逓増定期保険や全額損金算入型の商品が脚光を浴びていた時期でもあり、節税スキームの一例として活用されるケースも多かったです。
ただし2019年以降、国税庁の通達改正により、法人契約の生命保険に関する損金算入ルールが大幅に厳格化されました。個人事業主の場合、支払った保険料は「生命保険料控除」として所得控除の対象になりますが、控除上限は一般生命保険・介護医療保険・個人年金保険の3区分合計で最大12万円(所得税)です。この上限を超えて払い込んでも控除は増えないため、節税目的だけで保険料を増やすのは合理的ではありません。
個人事業主が保険を活用した節税スキームの一例として有効なのは、むしろ小規模企業共済やiDeCoとの組み合わせです。小規模企業共済の掛金は年間最大84万円が全額所得控除になり、iDeCoも国民年金基金と合算で月額6万8,000円(年間81.6万円)まで全額控除されます。生命保険料控除と合わせて活用することで、節税効果をより高めることが期待できます。
2026年の法人化直前に自分自身の保険を全面見直しした話
私は2026年に自身の法人を設立し、インバウンド民泊事業を立ち上げました。法人化に際して、それまで個人事業主として加入していた保険を全面的に見直す必要が生じました。
見直しの過程で都内のFP事務所へ相談に行き、複数社比較した結果、個人契約で持っていた定期死亡保険と医療保険については法人契約への切り替えを一部行いました。法人が保険料を負担する形にすることで、会社の経費として計上できる部分が生まれたからです(ただし損金算入可否は保険種類・保険期間・保険料の内容によって異なるため、必ず顧問税理士や専門家への確認が必要です)。
個人事業主として保険を持ち続けるのか、法人化後に契約形態を変えるのかは、事業規模や収益構造によって判断が異なります。「保険料が高い=良い保障」でも「安い=十分」でもなく、自分のキャッシュフローに合った設計が重要です。この経験は、AFP試験の座学だけでは得られなかった視点でした。
所得補償で守る「働けないリスク」——個人事業主に特に重要な保障軸
所得補償保険が個人事業主にとって重要な理由
フリーランス・個人事業主にとって、働けなくなるリスクは会社員以上に直接的な収入喪失につながります。会社員なら傷病手当金や有給休暇で一定期間はカバーできますが、個人事業主は休業した翌日から収入がゼロになるケースが大半です。
所得補償保険(就業不能保険)は、病気やケガで就業できなくなった場合に月々の給付金を受け取れる仕組みです。保険期間・支払い限度月数・免責期間(給付が始まるまでの待機期間)の設定によって保険料は大きく変わります。一般的に免責期間が60日の商品であれば、月額20万円の補償で月額保険料が4,000〜8,000円前後の商品も存在します(年齢・性別・職種等によって異なります)。
私が保険代理店在籍時に富裕層・経営者の方々の相談を多数担当した経験からも、「所得補償保険に未加入のままの個人事業主」が思いのほか多いという印象があります。死亡保障と医療保険だけ加入しているケースが多く、「働けなくなるリスク」への備えが手薄なパターンです。
所得補償保険の選び方と注意点
所得補償保険を選ぶ際に確認すべき主なポイントは、①支払い対象となる「就業不能」の定義(入院中のみか、在宅療養も含むか)、②給付開始までの免責期間、③支払い上限期間(1年型・5年型・60歳まで型など)、の3点です。
個人事業主の場合、事業収入が変動するため保険金額の設定が難しいという面もあります。生活費の最低ラインと固定費(家賃・各種保険料・ローン等)を洗い出し、それをベースに必要な補償額を算出する方法が現実的です。AFPとCFPの違い2026|AFP宅建士が示す6つの判断軸
なお、所得補償保険の保険料は個人事業主の場合、確定申告において「生命保険料控除」ではなく「必要経費」として計上できるケースがあります(事業専従者・事業用途と認められる場合)。ただし経費計上の可否は個別の状況により異なるため、税理士や専門家への確認を推奨します。
退職金準備と資産形成の軸——小規模企業共済とiDeCoの組み合わせ
小規模企業共済は個人事業主の退職金制度として有力な選択肢
個人事業主には企業年金も退職金も存在しません。老後の資金準備は自分自身で設計する必要があります。その際に特に注目すべき制度が、小規模企業共済です。
小規模企業共済は、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する共済制度で、掛金月額1,000円〜7万円(年間最大84万円)を積み立て、廃業・引退時に退職金として受け取れます。受取時は退職所得として税制上の優遇(退職所得控除)が適用されるため、課税面でも有利になる可能性が高い制度です。また掛金の全額が所得控除になるため、毎年の節税効果も期待できます。
私自身、個人事業主として活動していた期間から小規模企業共済に加入しており、掛金を最大限活用することで毎年の確定申告での所得税・住民税の負担を抑えています。ただし途中解約(任意解約)の場合は元本割れするリスクがある点は必ず把握しておくべきです。
iDeCoと生命保険料控除の組み合わせで節税効果を重ねる
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、個人事業主(国民年金第1号被保険者)の場合、国民年金基金の掛金と合算して月額6万8,000円まで拠出でき、全額が所得控除の対象になります。年間81.6万円の掛金が所得控除になるため、課税所得330万円超の方なら年間数十万円単位での節税効果が期待できます。
生命保険料控除(最大12万円)、小規模企業共済(最大84万円)、iDeCo(最大81.6万円)を組み合わせると、理論上は年間で177万円超の所得控除が積み上がります。これは個人事業主だからこそフル活用できる節税スキームの一例です。会社員との比較で見ると、個人事業主には社会的保障の薄さという不利がある一方、こうした制度活用の裁量が大きいというメリットがあります。AFP相談おすすめ2026|現役AFPが選ぶ6つの判断軸
なお、iDeCoの運用は原則60歳まで引き出せないため、生活費の流動性(緊急予備資金)を確保した上で拠出額を設定することが重要です。個別の税務・資産形成の判断は、最終的にはFP・税理士等の専門家への相談を推奨します。
私が相談で見た失敗例と、保険選びで後悔しないための視点
「とりあえず加入」で保険料を無駄にしていたケースが多い
保険代理店に在籍していた3年間、個人事業主・フリーランスの方の保険見直し相談で繰り返し目にしたパターンがあります。それは「独立時に人から勧められるままに加入した保険を、そのまま何年も放置している」というケースです。
具体的には、死亡保険金3,000万円の終身保険を月額3万円以上払い続けているにもかかわらず、所得補償保険には未加入という方がいました。この方は扶養家族もなく、万が一の死亡よりも「病気で数か月働けなくなること」のほうがリスクとして切実だったにもかかわらず、保障の重心がずれていたわけです。
保険は加入時の状況と、現在の状況が変わっていることがほとんどです。結婚・離婚・出産・独立・法人化といったライフイベントに合わせて、少なくとも3〜5年に一度は保険ポートフォリオを見直すことを私は推奨しています。
「安ければ良い」「高ければ安心」どちらも危険な発想
もう一つよく見かけた失敗は、保険料の安さだけを基準にネット保険に切り替えた結果、就業不能時の保障が薄く、いざという時にほとんど給付されなかったというケースです。ネット保険は保険料が抑えられる分、保障内容がシンプルに設計されていることが多く、個人事業主のような収入の不安定な方にはカバーしきれない場面もあります。
反対に、担当者に言われるまま複数の保障を重複して加入し、月額保険料が10万円を超えていたというフリーランスの方もいました。保険料が事業キャッシュフローを圧迫しており、投資や資産形成に回すべき資金が保険料に消えていた状態です。
保険は「必要な保障を、適切な保険料で持つ」というバランスが核心です。その判断には、自分の収支・事業リスク・家族構成・資産状況を総合的に把握したFPとの対話が有効な手段の一つです。
7つのメリット総整理とまとめ——個人事業主が保険を活かすために今できること
個人事業主が保険に入るメリット7軸の整理
- ①死亡保障:遺族・事業後継者への資金確保。扶養家族の有無で必要額は大きく変わる
- ②所得補償:傷病手当金のない個人事業主にとって、就業不能リスクへの備えは特に重要な保障軸
- ③医療保障:入院・手術費用のカバー。高額療養費制度との組み合わせで過不足を確認する
- ④節税(生命保険料控除):年間最大12万円の所得控除。他の控除制度と組み合わせて活用する
- ⑤退職金準備(小規模企業共済):年間最大84万円の所得控除+退職所得として受取時の税制優遇が期待できる
- ⑥事業継続リスクへの備え:賠償責任保険・PL保険など、事業内容に応じた保障を検討する
- ⑦資産形成との連携:iDeCo・NISA・貯蓄型保険を目的別に組み合わせ、長期的な資産形成を設計する
個人事業主が保険を活用するメリットは、リスクヘッジと節税・資産形成の両面に広がっています。ただし制度の活用可否・税務上の扱いは個別の事情により異なるため、最終的な判断は必ずFP・税理士等の専門家にご確認ください。
次のアクションは「現状把握」から始まる——FPへの相談を活用する選択肢
保険の見直しや資産形成の設計は、「何から手をつければいいかわからない」という状態が続くほど、最適化のタイミングを逃します。私自身、法人化前に都内のFP事務所へ相談に行ったことで、それまで漫然と払い続けていた保険料を整理し、iDeCoと小規模企業共済の掛金を適切なバランスに組み直すことができました。
FPへの相談は、特定の保険商品を売られる場ではなく、自分のお金の全体像を整理する場として活用するのが有効です。保険・節税・資産形成を総合的に見てくれるFPを探す際には、複数のFPと話を聞き比べることで、自分に合った視点を持つ専門家を見つけやすくなります。
個人事業主として保険のメリットを最大限に活かしたいと考えているなら、まず現状の保険契約と収支の棚卸しから始めることを推奨します。そのうえでFPのサポートを活用する選択肢も、ぜひ検討してみてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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