退職金の控除計算は、知っているかどうかで手取り額が数百万円単位で変わります。私はAFP・宅地建物取引士として総合保険代理店に在籍した3年間で、経営者や富裕層を中心に退職金設計の相談を数多く受けてきました。本記事では「退職金 控除 計算」の5つの算定軸を2026年最新ルールに基づいて整理します。
退職所得控除の基本式と勤続年数の関係を正確に理解する
退職所得控除額の計算式:2026年時点の正式ルール
退職所得控除の計算式は、所得税法第30条に基づいています。まず押さえるべき基本式は次のとおりです。
- 勤続年数20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
- 勤続年数20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
たとえば勤続年数が30年であれば、800万円+70万円×10年=1,500万円の控除額が得られます。この控除額を退職金の支給額から差し引き、さらに2分の1にした金額が「退職所得」として課税対象になります。
勤続年数は、1年未満の端数が生じた場合には切り上げて計算します。たとえば29年6か月であれば30年として扱います。この端数処理を見落とすと控除額の試算がずれるため、注意が必要です。
「勤続年数」のカウント起点と注意点
勤続年数の起算点は、原則として入社日(雇用契約の開始日)です。ただし、同一法人内での転籍・出向期間の扱いや、複数社を経験した場合の通算可否については、個別の雇用形態や退職一時金規程によって異なります。
特に経営者の方が注意すべきなのは、役員就任前の使用人期間との通算です。使用人兼務役員として勤務していた期間が長い場合、その期間を勤続年数に含められるかどうかが退職所得控除の総額を大きく左右します。国税庁の通達(法基通9-2-23等)を参照しつつ、税理士や社会保険労務士と連携して確認することをお勧めします。
20年超で控除額が跳ねる仕組みと実務での活用
20年の壁を越えると控除額はどう変わるか
先ほどの計算式をもう少し実感を持って確認しましょう。勤続19年と21年では控除額がどう変わるか比べてみます。
- 勤続19年:40万円×19年=760万円
- 勤続20年:40万円×20年=800万円
- 勤続21年:800万円+70万円×1年=870万円
20年目と21年目を比べると、控除額の増加幅が40万円から70万円に跳ね上がります。これが「20年の壁」と呼ばれる現象です。勤続年数が20年を超えた瞬間から、1年増えるごとに控除が70万円ずつ積み上がるため、長期勤続者ほど退職金の税負担が大幅に軽減されます。
私が保険代理店に在籍していた頃、中小企業の経営者から「早期退職を検討している」という相談を受けた際にも、この20年の壁を超えているかどうかが退職金設計の最初の確認事項でした。あと1〜2年で20年を超える方には、退職タイミングの調整を検討するよう情報提供することが実務上の鉄則です。
控除上限を踏まえた退職金の受取設計
退職所得控除には、現行法上に明示的な「上限額」は設けられていません。勤続年数が長いほど控除額は増え続けます。たとえば勤続40年であれば、800万円+70万円×20年=2,200万円の控除が受けられます。
ただし、2023年度税制改正の議論の中で、退職所得控除の縮小が俎上に載ったことは記憶に新しいところです。2026年時点では従来のルールが維持されていますが、今後の税制改正動向は継続的に確認する必要があります。制度の変化が退職金設計に直結するため、定期的にFPや税理士に現状の制度を確認する習慣を持つことが重要です。
2分の1課税の対象と例外:計算の第3軸
2分の1課税の仕組みと退職税金の優遇効果
退職金の課税計算において、退職所得控除と並ぶ大きな優遇措置が「2分の1課税」です。退職所得の計算式は次のとおりです。
退職所得=(退職金支給額 - 退職所得控除額)× 1/2
この2分の1の乗算により、同額の給与所得と比べて課税対象が大幅に圧縮されます。たとえば退職金3,000万円、退職所得控除額1,500万円の場合、退職所得は(3,000万円-1,500万円)×1/2=750万円です。給与所得として3,000万円を受け取った場合と比べると、課税対象の差は歴然です。
この2分の1課税は、退職一時金が長年の勤労に対する報酬として一括で受け取るという性質を考慮した制度設計です。分離課税として他の所得と合算されないことも、税負担を抑える重要な要素です。
2分の1課税が適用されない例外ケース
ただし、すべての退職金に2分の1課税が適用されるわけではありません。特定の条件に該当する場合、この優遇が制限されます。
2013年度税制改正以降、勤続年数5年以下の役員等(取締役・監査役・執行役・理事・監事等)が受け取る退職手当については、2分の1課税が適用されません。つまり、退職所得控除後の全額が課税対象となります。これを「特定役員退職手当等」といい、次のH2で詳しく解説します。法人保険で退職金準備2026|AFP宅建士が解く5つの設計軸
また、2022年度税制改正から、勤続年数5年以下の一般従業員(役員以外)が受け取る退職手当についても、退職所得控除後の残額が300万円を超える部分については2分の1課税が適用されなくなりました。この改正は比較的新しいため、見落としている方も少なくありません。個別の事情により異なりますので、最終判断は必ずFP・税理士等の専門家に確認してください。
役員退職金の特定役員退職手当ルール:第4の算定軸
特定役員退職手当等の定義と課税計算の違い
特定役員退職手当等とは、役員等としての勤続年数が5年以下の者が受け取る退職手当です。所得税法施行令第69条の2に規定されており、前述のとおり2分の1課税の適用が排除されます。
課税計算の式は次のとおりです。
特定役員退職所得=退職金支給額 - 退職所得控除額(全額課税、1/2なし)
私が代理店勤務中に経営者から受けた相談の中でも、「会社設立から3年で役員報酬代わりに退職金を受け取りたい」という話が複数ありました。このケースでは、2分の1課税が使えないため、退職金の税負担が想定よりも大幅に増加するリスクがあります。役員退職金の設計は、設立からの年数を含めて総合的に検討することが不可欠です。
一般退職手当等と特定役員退職手当等が混在するケース
実務でより複雑なのは、使用人(一般従業員)期間と役員期間の両方がある場合です。このケースでは、退職金を「一般退職手当等」と「特定役員退職手当等」に分けて計算します。
具体的には、一般退職手当等の部分には通常の2分の1課税が適用され、特定役員退職手当等の部分には2分の1が適用されません。それぞれに対応した退職所得控除額の按分計算が必要となるため、計算は複雑になります。iDeCoと退職金の違い2026|AFP宅建士が解説する7つの判断軸
2026年に自身の法人を設立した私自身も、将来の役員退職金設計を今から意識しています。法人設立初期から税理士・FPと連携して退職金の積立スキームを設計しておくことが、長期的な節税効果につながる選択肢の一つです。ただし、税務上の取り扱いは個別事情により異なるため、必ず専門家への相談を推奨します。
FPが教える退職金受取設計の順序:まとめとCTA
退職金控除計算の5つの算定軸を整理する
- 算定軸①:退職所得控除の基本式|勤続20年以下は40万円×勤続年数、20年超は800万円+70万円×超過年数で計算する
- 算定軸②:勤続年数の起算・端数処理|1年未満切り上げ、使用人期間との通算可否を個別確認する
- 算定軸③:2分の1課税の適用可否|原則は(退職金-控除)×1/2が課税対象。勤続5年以下の役員は適用除外
- 算定軸④:特定役員退職手当等のルール|役員勤続5年以下は2分の1なし・全額課税。使用人期間との混在ケースは按分計算が必要
- 算定軸⑤:受取タイミングと制度改正リスク|20年の壁を意識した退職時期の調整と、税制改正の継続モニタリングが設計の鍵
これら5つの軸を正確に把握することが、退職金の税金を最小化する第一歩です。計算式は公式化されていますが、実際の退職金額・勤続年数・役員期間の有無によって最適解は一人ひとり異なります。
退職金の受取設計を今すぐFPに相談すべき理由
退職金の控除計算は「知識」だけでは不十分です。自分の勤続年数・雇用形態・役員期間・受取時期の組み合わせを踏まえた「個別設計」が必要です。私は保険代理店時代、退職金の受取設計を後回しにしていた経営者が、退職直前になって税負担の大きさに慌てる場面を何度も見てきました。
理想的な相談のタイミングは、退職の3〜5年前です。この時期であれば、退職金の積立方法・受取時期の調整・iDeCoやNISAとの組み合わせ設計など、複数の選択肢を比較検討する余地があります。退職直前では取り得る手段が限られます。
「FPに相談する」というと敷居が高く感じる方も多いですが、オンラインで気軽に相談できるサービスも増えています。退職金準備の第一歩として、まずは中立的なFPに現状を整理してもらうことが有効な選択肢の一つです。なお、最終的な判断はご自身でご確認いただき、税務・法律に関わる個別の判断は税理士・弁護士等の専門家にもご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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